2010年3月アーカイブ

ハイチ大地震の際に、Google Earthでの公開をはじめ、地図画像の国際標準形式であるWMS(Web Map Service)で配信されたことを以前のエントリで紹介したが、WMS配信された後の動向を追いつつ、今回の事例をまとめてみたい。

前回のエントリで紹介しているが、参加型マッピングの世界的プロジェクトである、OpenStreetMap(OSM)ではこれを使ったマッピングが盛んに行われた。GeoeyeやDigitalGlobeだけでなく、他の機関もWMSで航空写真や衛星画像を公開した。一応、私の所属する防災科学技術研究所でもJAXAの協力により、ALOS(陸域観測衛星「だいち」)の緊急観測画像をWMSで公開し、微力ながらOSMに貢献した(リンクプレスリリースPDF)。

時間が経過するにつれて、WMS配信されるデータが増えて、それに伴ってハイチの地図が充実し、被害の把握が進んだ。この作成されたマップは、OSMにおいてデータとして公開され、また、WMSによって配信された。OpenStreetMap WikiProject Haitiを見ると、作成された地図や被害マップが活用された事例が多数紹介されている。

さらに注目すべきことに、様々なマップおよびマッピングサービスの下敷きに活用されただけでなく、データそのものを利用したマッシュアップサービスが登場した。経路探索サービス(リンク)、現場の要望をマッピングするサービス(リンク)、携帯端末でのデータの利用(リンク)などが登場した。このように、衛星画像を使って、被害把握から現場対応支援までが迅速かつシームレスに繋がったのである。

上記のように今回の一連のハイチでの事例を振り返ってみると、個人的には2つのポイントがあったと考えている。それは、1)WMSにようなデータが利活用システム側で動的に利用できる方式(分散相互運用環境)が役に立ったこと、2)参加型マッピングがマップ版クラウドソーシングだったこと、の2点である。

1)については、WMS配信されなければ、そもそもOSMによって被災地の迅速なマッピングが実現しなかった。さらに、マッピングされたデータは、WMS配信やデータとして公開されたことにより、現場対応支援までが迅速かつシームレスに実現した。従って、公開するデータが利活用システム側で動的に利用できる方式に対応することの有効性は明らかである。2)については、ウェブのトレンドになりつつあるクラウドソーシングそのものといえよう。

そして、これら2つのポイントは、同時に実現したことで効果が出たといえる。1)の相互運用方式によって衛星画像がWMS配信されることで、利用システム側でデータが動的に利用できるようになったことで、2)のクラウドソーシングとして参加型マッピングが容易に実現したのである。なお、GISドメインとしては、Googchildが2007年に、Volunteered Geographic Informationと名づけた(リンク)。

このようなアプローチの課題として、マッピングのデータの精度がある。ただし、精度の問題は、マッピングを行っている多くの人が問題意識を持っている点であり、バグをチェックするシステム(リンク)や、第三者が管理する仕組が登場した(リンク)。データそのものを公開したり、相互運用で配信することで、データに直接アクセスできるため、精度改善のための仕組もユーザ側で自律的に発案されるのである。ただし、精度の種類のうち、位置の精度については、ユーザサイドに起因するエラーではないため、改善するのは難しい。衛星画像の提供側の課題である。提供する際は位置精度が高いことが要求される。

というわけでまとめると、タイトルで示したように、今回の事例はマップ版クラウドソーシングが実現したわけで、その下支えとしてWMSのような動的にデータが利活用できる相互運用方式が役に立ったといえ、大規模災害時の情報収集手段として、この組み合わせによって、民間会社や専門家が作成するマップの網羅性や迅速性を超えるマップができ、さらに、新たな利活用が生まれるポテンシャルがあることが明らかになったといえる。利用ポリシーをどうするのかという点は課題だが、今後も大規模な災害が発生した際は、データの所有者はWMSで提供することを強く希望したい。

ただし、このやりかたは世界のどこでも有効だろうか?ハイチのような地図もほとんど無い場所だったから今回の参加型マッピングが有効だったが、もう少し発展した国で役に立つアプローチだろうか?地震の規模と被害の規模によるが、この点は考えておく必要があるだろう。

(本エントリを書くにあたり、臼田裕一郎氏(@usuyu)が収集した情報を多数利用している。本エントリは、臼田氏との共著という位置付けとしたい。)